このアルバムの3つのポイント
- ブレンデル1回目のベートーヴェンのピアノ協奏曲全集
- ハイティンク指揮ロンドンフィルとのオーソドックスな演奏
- レコードアカデミー賞受賞
食わず嫌いだったブレンデルの演奏を聴いてみることに
ブレンデルはモーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト、リストなどで定評があるのは知っていたが、どうも聴く機会が無かった。ヴラディーミル・アシュケナージ、マウリツィオ・ポリーニ、クリスティアン・ツィメルマン、エフゲニー・キーシン、ラファウ・ブレハッチなどのピアニストの演奏・録音を専ら聴いていて、時々スヴャトスラフ・リヒテル、エミール・ギレリス、マルタ・アルゲリッチやレイフ・オヴェ・アンスネスを聴く。そうするとそれで十分満足してしまって、内田光子やアルフレート・ブレンデルなど、専門家から評価が高くても食わず嫌いでなかなか聴く機会が無いことになる。
これはいかんと思っているうちに2008年12月のコンサートをもってブレンデルは引退してしまった。ブレンデルは1970年代からフィリップス・レーベルと契約し膨大なレコーディングを残しているが、その全録音が114枚のCD BOXとして2015年12月にリリースされた。いつか聴こうと思って取り敢えず買っておいた。その時の記事はFC2ブログに書いている。
FC2ブログ記事: 今年最後の大物レコーディング〜ブレンデルのフィリップス録音全集
ただ、こういうCD BOXというのはたいてい聴ききれずにクローゼットの奥に閉まったままになっているのが多い。このブレンデルの全集についてはずっしりと重たいし、114枚もCDがあるし、同じ作品を2度も3度も、中には4度も録音しているので、どれから聴けば良いのか最初から迷う。やっぱり全集よりもCD1枚、1枚を買って聴くほうが大事に聴くし、印象にも残るし、良いのかもしれない。
ブレンデルのベートーヴェンのピアノ協奏曲全集は3回
ドイツ=オーストリア音楽のレパートリーで定評のあったピアニスト、アルフレート・ブレンデルはフィリップス・レーベルに合計3回のベートーヴェンのピアノ協奏曲全集を収録している。1回目が1975〜1977年にベルナルト・ハイティンク指揮ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団と、2回目が1983年にジェームズ・レヴァイン指揮シカゴ交響楽団とライヴ録音で、そして3回目が1997〜1998年にサー・サイモン・ラトル指揮のウィーン・フィルハーモニー管弦楽団といった具合に。
私個人としては、3つの全集の中ではレヴァイン/シカゴ響との協演がライヴ録音ということもあり素晴らしいと思うのだが、ハイティンク/ロンドンフィル盤は最もオーソドックス、そしてラトル/ウィーンフィル盤は最も刺激的である。
ブレンデルとハイティンク/ロンドンフィルのピアノ協奏曲
1回目の全集は、ハイティンク指揮ロンドンフィルと、1975年から1977年に掛けてウォルサムストウ・アセンブリー・ホールでのセッション録音。同時に合唱幻想曲も録音している。この全集は日本ではレコードアカデミー賞を受賞、米国でもグラミー賞にノミネートされたもので、専門家からの評価も高い。
指揮がハイティンクなので、オーケストラの演奏もオーソドックスだし、ブレンデルもこのとき40代半ばということもあり、高い演奏技術で安心して聴ける。
ピアノ協奏曲第1番 Op.15
全集の中で最初に録音されたのがこのピアノ協奏曲第1番と第3番。オーケストラの透き通った響きが見事。ブレンデルのピアノも良い。あまりペダルを使わずに、モーツァルトを演奏するかのような古典的なピアノだが、それのおかげで、音がくっきりと聴こえて、この曲に合う。
ピアノ協奏曲第2番 Op.19
全集としては最後の録音になったのが、このピアノ協奏曲第2番。ここでのブレンデルではペダルを割と使ってレガートに演奏している。作品番号としてはそれほど離れていない作品だが、第1番とアプローチが違っているのが興味深い。
ピアノ協奏曲第3番 Op.37
ハ短調のピアノ協奏曲だが、ハイティンクとロンドンフィルの響きには爽やか、ほのかな明るさを感じる。カデンツァは軽快。第2楽章は白眉の出来で、特に素晴らしい。第3楽章も安心して聴ける。冒頭のトルコ風リズムでのピアノの打鍵が見事。くっきりと聞こえる。
ピアノ協奏曲第4番 Op.58
第4番は穏やかで静かな曲だけに、音質が重要な曲でもある。ただ、この録音では音が詰まって聞こえてしまい、美しい響きをうまく捉えられていない。
ブレンデルのピアノは申し分無いし、ハイティンクらしいバランス感覚で内声もよく引き出されている。オーソドックスで安心して聴けるということは、「つまらない」と言われるのと表裏一体だろう。ただ、繰り返し聴くならこういう演奏のほうが合っている。
ピアノ協奏曲第5番「皇帝」 Op.73
この「皇帝」は王道のアプローチ。ブレンデルのピアノは奇をてらうことなく、安心して聴ける。ハイティンク指揮のロンドンフィルの響きもスッキリとしている。
第2楽章は穏やかでピアノの美しさとオーケストラの柔らかい響きが溶け合う。
第3楽章も伸びやか。ブレンデルは決してヴィルトゥオーソタイプのピアニストでは無いが、ベートーヴェンのピアノ協奏曲の中でも高度なテクニックが要求されるこの「皇帝」の第3楽章では、速弾きに酔いしれるわけでもなく、作品の良さを引き出している。
合唱幻想曲 Op.80
この全集には合唱幻想曲Op.80も収録されている。合唱を伴う管弦楽作品で、後の交響曲第9番「合唱付き」につながる音楽である。驚くのは第3楽章で合唱が加わるところ。非常にクリアに聴こえて、ハイティンクならではのバランス感覚に長けた演奏だ。
まとめ
ピアノもオーケストラもオーソドックス。安心して繰り返し聴ける全集だ。
オススメ度
ピアノ:アルフレート・ブレンデル
指揮:ベルナルト・ハイティンク
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
ロンドン・フィルハーモニー合唱団(合唱幻想曲)
録音:1975年11月10-12日(第1番、第3番), 1976年1月19日(第4番), 1976年3月29, 30日(第5番), 1977年4月6, 7日(第2番, 合唱幻想曲), ウォルサムストウ・アセンブリー・ホール
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受賞
ピアノ協奏曲全集が日本の1977年度レコードアカデミー賞協奏曲部門を受賞。
また、1977年の米国グラミー賞の「BEST CLASSICAL PERFORMANCE INSTRUMENTAL SOLOIST OR SOLOISTS (WITH ORCHESTRA)」にノミネートされるも受賞はならず。
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