このアルバムの3つのポイント

ブルックナー交響曲第8番 カルロ・マリア・ジュリーニ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1984年)
ブルックナー交響曲第8番 カルロ・マリア・ジュリーニ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1984年)
  • ジュリーニ晩年のブルックナー!
  • 長大な演奏ながらもしっかりとした構造
  • レコードアカデミー賞受賞

イタリア出身の名指揮者カルロ・マリア・ジュリーニはブルックナーを時折演奏しており、1970年代はウィーン交響楽団やシカゴ交響楽団、1980年代にはウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、最晩年の1990年代にはシュトゥットガルト交響楽団などと録音もしています。

ジュリーニはイタリア出身でオペラを得意としていましたので、彼が指揮すると楽曲の旋律が最大限引き出されるような歌心ある演奏になるのですが、ブルックナーではこうした旋律美だけではなく、低音も迫力ある響きで鳴らすのでどっしりとした構築があり、聴き応えがあります。

特に1984年から1988年におこなったウィーンフィルとのブルックナーの後期交響曲の録音は評価が非常に高い演奏。1988年の交響曲第9番 ニ短調の録音はこちらの記事で紹介していますが、第1楽章での巨大な渦のような音楽と第3楽章の歌心ある美しさとのメリハリが素晴らしく、ジュリーニの演奏の中でも最高と言える一つだと思っています。

今回紹介するブルックナーの交響曲第8番 ハ短調は、カルロ・マリア・ジュリーニがウィーン・フィルハーモニー管弦楽団を指揮して1984年に録音したもので、日本ではレコードアカデミー賞を受賞した名盤です。

この楽曲は版によって差異が出る作品ですが、ジュリーニが選んだのは1890年(第2稿)ノーヴァク版。ハース版に比べると、ブルックナーの意図による改訂ではないと見なされた部分はカットされているので、演奏時間が短くなるはずです。

交響曲第8番 第2稿ノーヴァク版での演奏時間比較

第2稿ノーヴァク版だと、オイゲン・ヨッフム指揮ベルリンフィル(1964年)やゲオルグ・ショルティ指揮シカゴ響(1990年)の演奏が75分で速めの部類。リッカルド・シャイー指揮コンセルトヘボウ管(1999年)の79分や、マリス・ヤンソンス指揮バイエルン放送響(2017年)の80分が中間の部類。しかし、このジュリーニ指揮ウィーンフィル盤では、何と87分33秒も掛かっています。

表にまとめてみました。

演奏第1楽章第2楽章第3楽章第4楽章トータル
オイゲン・ヨッフム指揮ベルリンフィル(1964年)13:4114:0226:4219:5074:15
ゲオルグ・ショルティ指揮シカゴ響(1990年)15:1114:3324:1020:2174:15
カルロ・マリア・ジュリーニ指揮ウィーンフィル(1984年)17:0616:2429:2324:4087:33
リッカルド・シャイー指揮コンセルトヘボウ管(1999年)16:1315:0725:3622:0679:02
マリス・ヤンソンス指揮バイエルン放送響(2017年)16:3515:2324:4923:1580:02
ブルックナー交響曲第8番の1890年(第2稿)ノーヴァク版の演奏時間比較

全体的にゆっくりなのですが、特に第3楽章が29分とかなり時間を掛けていることが分かります。ジュリーニの歌うような旋律がこの第3楽章アダージョで花開いているのです。

話を第1楽章に戻すと、ジュリーニはゆったりとしたテンポで、ブルックナーの旋律を丁寧に引き出していますが、それだけではありません。結構低音を効かせて、重厚感がある構造にしています。フォルテの部分ではティンパニーや金管が荒々しく演奏されて、嵐のようなこの曲の激しさもしっかりと捉えています。こうしたメリハリがジュリーニのもう一つの特徴だと思うのですが、たとえ演奏時間が長くても聴いていて全く飽きることがないんですよね。他の演奏家の場合だと、演奏時間が85分を超えてCDが2枚に分かれていたら飽きて来ることもあるのですが。。

第2楽章のスケルツォでも、ゆっくりとドンと構えたテンポですが、中間部ではウィーンフィルらしい柔らかさと牧歌的な優しさが魅力的です。

29分も掛けた第3楽章

そして第3楽章はやはりこの演奏で一番の聴きどころ。これまでと一転して穏やかな雰囲気に変わり、ジュリーニは丁寧に丁寧に美しい旋律を紡いでゆったりとしたテンポで極上の美しさを奏でます。はちきれんばかりの官能美と言えば良いでしょうか。ウィーンフィルのオーケストラの個性がとてもよく表れていますね。

落ち着いた第4楽章

第4楽章は通常は英雄が行進するかのような壮大な曲なのですが、ジュリーニとウィーンフィルは冒頭から静かに、柔らかい音色でゆったりと始め、気品さを感じさせます。しかしジュリーニのメリハリが効いていてティンパニーが鳴り響き、勇ましく、大きなスケールで描いていきます。

歌心はもちろんですが、しっかりとした構造を持たせたメリハリが効いたブルックナーの交響曲第8番。88分の長丁場ですが、聴いていると時計を見るのを忘れてしまうほど作品に入り浸ってしまいます。ジュリーニとウィーンフィルの「超」が付く名演でしょう。

オススメ度

評価 :5/5。

指揮:カルロ・マリア・ジュリーニ
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1984年5月, ウィーン楽友協会・大ホール

iTunesで試聴可能。

1985年度の日本のレコードアカデミー賞「交響曲部門」を受賞。

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