このアルバムの3つのポイント

リスト ファウスト交響曲 サー・ゲオルグ・ショルティ/シカゴ交響楽団(1986年)
リスト ファウスト交響曲 サー・ゲオルグ・ショルティ/シカゴ交響楽団(1986年)
  • フランツ・リストの隠れた名曲
  • 3つの性格を描き分けたショルティ&シカゴ響
  • 米国グラミー賞の最優秀オーケストラ・パフォーマンスを受賞

ハンガリー出身の音楽家フランツ・リストの傑作といえば、ラ・カンパネラ超絶技巧練習曲集、ピアノ・ソナタロ短調などのピアノ曲が思い浮かびますが、標題音楽の理念を実現するために交響詩というジャンルを生み出したリストの作品で、忘れてはいけないのが『ファウスト交響曲 (3人の人物描写による)』。

当時のドイツの偉大な詩人で劇作家のヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテの『ファウスト』を題材としていて、3人の主要な登場人物ファウスト、グレートヒェン、メフィストフェレスの性格がそれぞれ第1楽章から3楽章で描かれています。第3楽章は独自の主題を持たず、第1楽章のパロディや第2楽章の旋律が引用されています。これはメフィストフェレスが全てを否定する霊で自分のテーマを持たないためだそうです。

私もだいぶ前に下北沢の小さな劇場でファウストの劇を見たことがありますが、かなり濃厚なテイストで苦悩に苦しむファウストの姿が今でも強烈に焼き付いています。

リストの伝記(音楽之友社の『作曲家 人と作品 リスト』)の中で福田 弥 (わたる) 氏が「リストの最高傑作のひとつ」と評していますし、2007年にリリースされたCDアルバムUCCD-3751で解説を書いた岩井 宏之 氏も「演奏される機会は少ないけれども、その着想、その作曲技法の点で、疑いもなくリストの代表作のひとつである。」と評しています。

確かにゲーテの作品を題材にしている点や、さらにオーケストラ、テノール、合唱というスケールの大きさから作曲家としてのリストの傑作と言って過言ではないでしょう。

ベルリオーズに献呈

ファウスト交響曲はエクトル・ベルリオーズに献呈された曲。ベルリオーズはゲーテの『ファウスト』にインスパイアされていて、1846年に作曲した『ファウストの劫罰』を1854年に出版する際にリストに献呈していて、それに応える形となりました。リスト自身はファウスト交響曲を1853年から作曲し始め、1854年10月に一度完成していますが、1857年に初演されるまでに第3楽章に合唱を追加するなどし、1861年に改訂して初版、1880年にも変更しています。

今回紹介するのは、そのファウスト交響曲をハンガリー出身の指揮者サー・ゲオルグ・ショルティシカゴ交響楽団を指揮したもの。このアルバムは米国グラミー賞の最優秀オーケストラ・パフォーマンスを受賞しています。

1981年に同じくシカゴ交響楽団とシカゴ合唱団、合唱指揮のマーガレット・ヒリスとベルリオーズの「ファウストの劫罰」をセッション録音し、1989年にはイギリスのプロムスに出演してシカゴ響ライヴ録音もしたショルティ。CDの帯には『「無視され続けた傑作」とショルティ自身が語ったリストの名作。米グラミー賞受賞盤!』と書いてあります。

ショルティはグラミー賞の最多受賞者ですが、合唱を含む曲は特に強い印象ですね。1971年8〜9月にウィーンで録音されたマーラーの交響曲第8番「千人の交響曲」で2冠、1972年5月のベルリオーズの幻想交響曲が3冠、1978年5月のブラームスのドイツ・レクイエムは「最優秀合唱パフォーマンス」、1986年9〜10月のベートーヴェンの第九再録音は「最優秀オーケストラ・パフォーマンス」を受賞しています。

シカゴ響のパワー、明朗さと美しさ

さすがグラミー賞を受賞したアルバムだけあって、申し分のない出来です。第1楽章ではファウストの旋律がパワフルで明朗な響きで力強く演奏されていますし、第2楽章のグレートヒェンの美しさと言ったら筆舌に尽くしがたいです。そして第3楽章のメフィストフェレスではショルティのキレのあるリズムに、シカゴ響が機敏に合わせて躍動感を生み出しているのも見事ですが、後半のテノール独唱のジークフリート・イェルサレムの穏やかな歌声と、マーガレット・ヒリス率いるシカゴ交響合唱団の透き通った歌声に癒やされます。

リストの最高傑作をショルティ/シカゴのグラミー賞受賞盤で聴く幸せ。

オススメ度

評価 :5/5。

テノール:ジークフリート・イェルサレム
指揮:サー・ゲオルグ・ショルティ
シカゴ交響楽団
シカゴ交響合唱団 (合唱指揮:マーガレット・ヒリス)
録音:1986年11月, シカゴ・オーケストラ・ホール

Apple Music で試聴可能。

1987年の米国グラミー賞の最優秀オーケストラ・パフォーマンスを受賞。また、James Lock が最優秀技術アルバム部門にノミネートするも受賞ならず。

Tags

コメントはまだありません。この記事の最初のコメントを付けてみませんか?

コメントを書く

Twitterタイムライン
カテゴリー
タグ
1976年 (21) 1977年 (16) 1978年 (19) 1979年 (14) 1985年 (14) 1987年 (17) 1988年 (15) 1989年 (14) 2019年 (21) アンドリス・ネルソンス (21) ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 (83) ウィーン楽友協会・大ホール (59) エジソン賞 (19) オススメ度2 (14) オススメ度3 (81) オススメ度4 (116) オススメ度5 (152) カルロ・マリア・ジュリーニ (27) カール・ベーム (28) キングズウェイ・ホール (15) クラウディオ・アバド (24) クリスティアン・ティーレマン (18) グラミー賞 (29) コンセルトヘボウ (35) サー・ゲオルグ・ショルティ (54) サー・サイモン・ラトル (22) シカゴ・オーケストラ・ホール (23) シカゴ・メディナ・テンプル (16) シカゴ交響楽団 (53) バイエルン放送交響楽団 (35) フィルハーモニー・ガスタイク (16) ヘラクレス・ザール (21) ヘルベルト・フォン・カラヤン (33) ベルナルト・ハイティンク (37) ベルリン・イエス・キリスト教会 (22) ベルリン・フィルハーモニー (33) ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 (67) マウリツィオ・ポリーニ (17) マリス・ヤンソンス (43) ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 (18) リッカルド・シャイー (21) レコードアカデミー賞 (26) ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 (43) ロンドン交響楽団 (14) ヴラディーミル・アシュケナージ (28)
Categories