このアルバムの3つのポイント
- ツィメルマンとブーレーズ
- クリーヴランド管の精緻さとロンドン響の色彩
- 英国グラモフォン賞の20世紀協奏曲部門を受賞!
ピアノ協奏曲の録音が多いツィメルマン
現代を代表するピアニストの一人、クリスチャン・ツィメルマン(クリスティアン・ツィマーマンとも)。ポーランド出身で1975年のショパン国際コンクールの優勝者なので、ショパンを得意としていますが、決してショパン弾きというだけではなく、バッハ、ベートーヴェン、ブラームスなどのドイツの作曲家やフランスのドビュッシー、ラヴェルなども評価が高いです。
ピアノ・リサイタルはよくおこなうのですが録音については慎重で、2021年12月で65歳を迎えた大ベテランですが、特にピアノ独奏の録音はそれほど多くありません。
しかし、ピアノ協奏曲はよく録音をしています。指揮者も多様で、カルロ・マリア・ジュリーニとはこちらの記事で紹介したショパンのピアノ協奏曲(1978、79年)、ヘルベルト・フォン・カラヤンとはシューマンとグリーグ(1981年、82年、FC2ブログ記事)、レナード・バーンスタインとはブラームスのピアノ協奏曲第2番(1984年)、ベートーヴェンのピアノ協奏曲(1989年)、小澤征爾とはリストのピアノ協奏曲第1番、第2番(1987年)、ラフマニノフのピアノ協奏曲第1番(1997年)、第2番(2000年、FC2ブログ記事)、近年ではサー・サイモン・ラトルとの協演が多く、ブラームスのピアノ協奏曲第1番(2003年)、ルトスワフスキ(2013年、FC2ブログ記事)、バーンスタインの交響曲第2番(2018年、FC2ブログ記事)、そして今年リリースされたベートーヴェンのピアノ協奏曲全集(2020年)を録音しています。
そしてピエール・ブーレーズとはバルトークのピアノ協奏曲第1番(2001年)、そして今回紹介するラヴェル(1994年、96年)を録音しています。
これほど多くの名指揮者と協演して録音をおこなったピアニストも珍しいのではないでしょうか。
ラヴェルのピアノ協奏曲
このアルバムに収録されているのは、全てモーリス・ラヴェルの作品で、ピアノ協奏曲 ト長調、高雅にして感傷的なワルツ(ピアノは無い管弦楽曲版)、左手のためのピアノ協奏曲 ニ長調の3曲。指揮は全てブーレーズで、2曲のピアノ協奏曲のソリストがツィメルマンです。オーケストラはト長調の協奏曲とワルツがクリーヴランド管弦楽団、ニ長調の協奏曲がロンドン交響楽団です。
ト長調のピアノ協奏曲はラヴェル没前6年前の1931年に完成された最晩年の作品で、従来のピアノ協奏曲とは別物という意味を込めて、ムチを楽器として用い、冒頭に一発ピシッと鳴らすところから始まります。
ツィメルマンのピアノは細部に至るまで完璧で、磨き抜かれているという印象です。先週聴きに行ってきた来日リサイタルでも「透徹の響き」というキャッチフレーズでしたが、このラヴェルでの透明感ある響きはツィメルマンならでは。
ブーレーズとクリーヴランド管の機動力があって精緻なアンサンブルも見事です。クリーヴランド管の響きは他のアメリカのオーケストラとは違って、パワーで圧倒するのではなく室内楽的な響きがします。ト長調の協奏曲と高雅にして感傷的なワルツでは、スッキリとした響きで、緻密に色彩豊かに描いていきます。
左手のためのピアノ協奏曲
左手のためのピアノ協奏曲は、1996年のロンドン響との演奏。続けて聴くとオーケストラの響きが全く違います。クリーヴランド管は軽やかさもありましたが、ロンドン響は凄みを感じるほどの迫力があります。ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団に似ているサウンドですよね。 ここは好みによると思いますが、ト長調のクリーヴランド管の室内楽的な響きよりも私はこの曲でのロンドン響のゴージャスな響きのほうが好きです。
第1楽章のコントラバス、チェロ、コントラファゴットの低い低いうめき声のような不気味さから、ヒートアップして一気にボルテージが上がって行くのですが、鳥肌が立つほどの迫力があります。ブーレーズの手腕が光ります。そして加わるツィメルマンのピアノはまるで大理石のように磨き上げられています。
単一楽章で18分ほどしかないですが、ラヴェルの色彩感覚が光った作品です。
まとめ
ツィメルマンがブーレーズと協演したラヴェルの2つのピアノ協奏曲。透徹なピアノの響きと、2つのオーケストラの違いも感じられるアルバムです。
オススメ度
ピアノ:クリスチャン・ツィメルマン
指揮:ピエール・ブーレーズ
クリーヴランド管弦楽団(協奏曲ト長調、ワルツ)
ロンドン交響楽団(協奏曲ニ長調)
録音:1994年11月, マソニック・オーディトリアム(協奏曲ト長調、ワルツ)
1996年7月, ワトフォード・コロッセウム・メイン・ホール(協奏曲ニ長調)
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試聴
iTunesで試聴可能。
受賞
1999年の英国グラモフォン賞の「20th-Century Concerto」を受賞。
コメント数:1
本当にアンサンブルが緻密で、ト長調の第3楽章の超速いパッセージも、オケの各楽器とピアノとの受け渡しが見事につながり、オケとピアノが一体となって色彩豊かな世界を作り出していました。左手のための協奏曲は、オケ編成に、コントラファゴット、トロンボーン、チューバなども加わり、ト長調の協奏曲とは対照的に、重厚な響きを醸し出していました。両手が使えるピアニストが弾く場合は、両手で弾いてもいいのかな、などと思いながら聴いていました。自分は両手両足を使っても到底無理ですが。