このアルバムの3つのポイント

ヴァーグナー楽劇「ローエングリン」 ルドルフ・ケンペ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1962-63年)
ヴァーグナー楽劇「ローエングリン」 ルドルフ・ケンペ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1962-63年)
  • いぶし銀の指揮者ルドルフ・ケンペによる「ローエングリン」
  • ウィーンフィルの美音
  • 当時最高の歌手陣

先週、本屋にふらっと立ち寄ったときに、レコード芸術(レコ芸)の表紙に目を惹かれました。

2021年10月号の特集が「いぶし銀の名指揮者」だったのです。

レコード芸術2021年10月号表紙
レコード芸術2021年10月号表紙

パラっと立ち読みしてみると、フランツ・コンヴィチュニー、クルト・ザンデリング、ヨゼフ・カイルベルト、オトマール・スウィトナー、オイゲン・ヨッフム、ヘルベルト・ブロムシュテット、ホルスト・シュタイン、ジョン・バルビローリ、コリン・ディヴィス、そしてルドルフ・ケンペなどが紹介されていました。

音楽之友社の雑誌だと、「音楽の友」のほうはよく買っていて、海外の指揮者や演奏家のインタビュー記事やコンサートやリサイタルのレビューを読んでいますが、レコ芸のほうはあまり買っていませんでした。

私が知らない指揮者もいましたが、「ドイツ・グラモフォン・レーベルでベルリンフィルやウィーンフィルを指揮したレコーディングが多いオイゲン・ヨッフムもいぶし銀扱いなのか」とか、「クルト・ザンデリングとかジョン・バルビローリとか、最近タワーレコードで企画盤が出ている指揮者が多いな」とか、そんな印象を持ちつつ面白そうな企画なのでじっくり読んでみようと思って購入することに。

ルドルフ・ケンペについては、

ケンペの持ち味は、繊細で控えめながら、副声部や響きのニュアンスを引き立たせ、作品に室内楽的性格を見出そうとする姿勢にある。

レコード芸術2021年10月号P.29

と紹介されていました。

レコ芸2021年10月号でケンペの名盤と紹介されていたのは、1974年11月のミュンヘンフィルとのブラームスの交響曲第4番(Altusレーベル)。「名演が多い同作品であるが、ケンペの持ち味が最も味わえる演奏であろう。」と紹介されています。そして別のページには、復刻企画盤を次々にリリースしているタワーレコードの商品開発部兼バイヤーの方の記事があり、復刻盤によって音質向上と演奏に瞠目したレコーディングとして、ケンペの1971年から73年のミュンヘンフィルとのベートーヴェンの交響曲全集が紹介されています。

この記事を読んで私が思い出したのが、ウィーンフィルとの「ローエングリン 」の録音。所持している唯一のケンペのレコーディングです。

当時、学生の身だった私は、ピアノ独奏曲、ピアノ協奏曲、そして交響曲や管弦楽曲を一通り聴いて、いよいよオペラを聴き始めようとしていた頃でした。ヴァーグナーの楽劇についても触手を伸ばし始め、これまでハイライト版で聴いていた第3幕への前奏曲や結婚行進曲で有名な「ローエングリン 」をちゃんと聴こうと思い、タワーレコード渋谷店のクラシックフロア・オペラコーナーで陳列されたCDを品定めしていたのです。

そこで出会ったのがルドルフ・ケンペ指揮の1962年・63年のウィーンフィルとのセッション録音の「ローエングリン 」。オーケストラがウィーンフィルということもあったのですが、EMIレーベルの輸入盤CDは価格が安くて懐に優しかったというものもあります。

結論から言うと、インターネットであらすじを見ながらCDで聴いても全然情景が頭に入ってこず、第1幕への前奏曲や第3幕への前奏曲など聴いたことがある曲は印象に残ったのですが、ストーリーが全くわからなかったですね。もし過去に振り返るなら、あのときにCDで聴くのではなくDVDなどで映像作品のオペラを観たほうが良かったと思います。私の中で「ローエングリン 」の再ブームが来たのも、2018年のバイロイト音楽祭でのクリスティアン・ティーレマンが指揮した映像作品(FC2ブログ記事)を観てからで、やっぱり目で観ていないと「耳で聴くオペラ」は印象に残らないなと思った次第でした。

さて、ルドルフ・ケンペが指揮した「ローエングリン 」は、ウィーンフィル盤がEMI(現在はワーナー)レーベルからリリースされています。ケンペ生誕110周年だった2020年にタワーレコードがSACDハイブリッド盤を800セット限定でリリースしましたが、2021年10月時点では廃盤になっており入手できません。根強い人気ですね。

また、他に1967年7月30日のバイロイト音楽祭でのライヴ録音もあります。

CD1のトラック1。第1幕への前奏曲で一気に虜になります。透き通っていて神秘的な空間が広がります。美しいのですが、やり過ぎて耽美的になることはなく、一線は守っています。これがケンペが「中庸」とも言われるゆえんなのでしょう。自然体な演奏で心に染み入ります。

例えば有名な第3幕への前奏曲は華やかな曲想ですが、ここでケンペとウィーンフィルはテンポを煽ることもせずにどっしりと構えています。勇ましい金管のファンファーレを強調させるだけでなく、細かい弦のトレモロを刻み付けるようにしっかりと聴こえさせています。内声を重視するケンペの特徴が出ていると言えるでしょう。ケンペが目指したのは、ドラマティックな演奏ではなく豊かな音の重なりだったのかもしれません。

そして歌手陣は当時の最高とも言われるメンバーで、第1幕への前奏曲が終わるとトラック2にヘラルド(軍令司)役のバスのオットー・ヴィーナーとハインリヒ王役のバスのゴットロープ・フリックから始まり、さらにトラック3ではフリードリヒが登場。説明不要の名バリトン歌手ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウがフリードリヒ役を務めていますが、彼が歌い出すとがらっと雰囲気が変わります。

第1幕第2場(CD1のトラック5から9)ではエルザが登場しますが、エリザベート・グリュンマーがソプラノを務めています。どこか儚くて夢見心地の第一声から始まるエルザの歌声は熱を帯びて芯の強さも感じられます。ケンプ率いるウィーンフィルは木管の声部は際立たせていますが、グリュンマーの歌声を引き立たせるようにオーケストラ全体としてはボリュームを落としています。

そして第3場(CD1のトラック10から16)で白馬の騎士ローエングリンが登場。テノールはジェス・トーマスが務めています。清々しい声で魅了します。

オルトルート役は引く手あまたのメゾ・ソプラノ歌手のクリスタ・ルートヴィヒ。特にCD2のトラック6で”Entweihte Götter! Helft jetzt meiner Rache!” でははち切れんばかりの感情で、エルザがかすむくらいの存在感が光っています。

いぶし銀の指揮者とも言われるルドルフ・ケンペのウィーンフィルとの「ローエングリン 」。奇を衒うことのない中庸的な演奏に、豪華な歌手陣の存在感が際立っています。

オススメ度

評価 :4/5。

ローエングリン役(テノール):ジェス・トーマス
エルザ・フォン・ブラバント役(ソプラノ):エリザベート・グリュンマー
オルトルート役(メゾ・ソプラノ):クリスタ・ルートヴィヒ
フリードリヒ・フォン・テルラムント伯爵役(バリトン):ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ
ハインリヒ・デア・フォーグラー役(バス):ゴットロープ・フリック
ヘラルド(軍令司)役(バス):オットー・ヴィーナー
指揮:ルドルフ・ケンペ
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ウィーン国立歌劇場合唱団
録音:1962年11月23-30日, 12月1-5日, 1963年4月1-3日, アン・デア・ウィーン劇場

iTunesでハイライト版を試聴可能。

特に無し。1964年米国グラミー賞「BEST OPERA RECORDING」にノミネートされるも受賞ならず。

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